2020-01-01から1年間の記事一覧

落語のひととせ 14 冬の部4

餅搗き (尻餅、狂歌家主) 正月が目前となり、餅搗きをする時期になりました。二十九日に搗く餅は、九が苦につながるところから、「苦餅」と言われて嫌がられました。餅を搗くときには職人を頼み、ご祝儀を出しますから、餅搗きも縁起の行事と言えそうです…

落語のひととせ 13 冬の部3

富札 その1 (富久、火事息子) 富札は昔、寺社が修復の資金集めのために許しを受けて売り出したものです。一枚が一分で、最高賞金の一番富が千両ですから、四千倍になるということになります。富札は、売った者が誰に売ったかをきちんと控えておきます。売…

落語のひととせ 12 冬の部2

鍋物 その2 (ねぎまの殿様、居酒屋、ずっこけ) ねぎま (ねぎまの殿様) 現代の居酒屋で「ねぎま」というと「葱間」で、葱と鶏肉が交互に串に刺された焼鳥が出てくるでしょう。江戸では、葱と鮪を煮た「葱鮪」鍋のことです。ついでに、魚について、「中落…

落語のひととせ 11 冬の部1

うどん (うどんや、替り目) 江戸っ子は蕎麦を好み、表立っては饂飩を食べない振りをしました。饂飩は温まりますから、冬の夜にはうってつけなのですが、「饂飩は風を引いたときに口にするものだ」というのが、やせ我慢の江戸っ子の弁です。とすると、「お…

落語のひととせ 10 秋の部3

蕎麦 その1 (蕎麦の殿様、よいよい蕎麦) 秋は新蕎麦の季節です。 これは赤井御門守様の咄だと伝えられます。ある日、お出かけ先で蕎麦を打って振る舞われた殿様、その蕎麦の味もさることながら、蕎麦打ちの手順にすっかり感心してしまいました。早速、余…

落語のひととせ 9 秋の部2

薩摩芋 その1 (位牌屋、味噌蔵) 薩摩芋は、琉球から薩摩に伝わり、甘藷先生と呼ばれる青木昆陽が救荒用の食物として全国に広めたものです。当初は琉球芋とも呼ばれました。 赤螺屋(あかにしや)という商家は、屋号の示す通りとてもけちで、味噌汁に実を入…

落語のひととせ 8 秋の部1

名月 その1 (近江屋丁稚、柳田格之進) 秋の部を名月から始めましょう。 中秋の名月は八月十五夜です。中秋とは、江戸時代、七、八、九月が秋とされ、八月はその真ん中だから中秋という意味です。「月月に月みる月はおほけれど月みる月はこの月の月」とい…

落語のひととせ 7 夏の部4

大山参り (大山参り<百人坊主>) 江戸で山に出掛けるのは、行楽ではなく、もっぱら信仰としてでした。特に人気があったのは、相模の大山でした。当時の人は「お山をする」と言っていました。このお山参りには、まず、両国の垢離場で身を浄めて出発します。…

落語のひととせ 6 夏の部3

酢豆腐 (酢豆腐) 夏場は物が腐りやすくなります。冷蔵庫がない時代、長屋からは生鰯を買ったお神さんの「おまえさん、ぽかときているんだよ、早くさばいておくれ」という声が聞こえてきます。暑気払いと理由を付けて一杯やっていた若い者一同、もう日が高…

落語のひととせ 5 夏の部2

夏祭り その1 (百川) どこの土地にも祭り好きの人はいますが、江戸っ子も祭り好きでした。そこに目立ちたがりが加わって、ついつい派手が度を超すこともあったようです。いよいお祭りが近くなったある日、日本橋浮世小路の百川という料理屋の二階に、魚河…

落語のひととせ 4 夏の部1

端午 その1 (菖蒲売り、人形買い) 井原西鶴の『好色一代男』は、「桜も散るに嘆き、月も限りありて入佐山(いるさやま)」と書き出していまして、いつか季節は移ります。いよいよ夏に入ります。正月から三月が春、四月から夏、ほととぎすは夏の鳥だから春に…

落語のひととせ 3 春の部3

花見 その1 (花見酒) 花と言えばやはり桜、桜が咲くと人の心はぱっと浮き立ちます。「梅は咲いたか、桜はまだかいな。山吹ゃ浮気で色ばっかり、しょんがいな」という唄の通り、桜の咲くのを人々は待ち兼ねています。ちらほらでも咲き始めれば、「銭湯で上…

落語のひととせ 2 春の部2

初天神 (初天神) 正月にはいろいろな初の付く行事がありますが、咄になっているのは初天神です。天神様、菅原道真公は二月二十五日が命日なので、毎月二十五日が天神様の縁日になっていて、年の初めの最初の縁日の一月二十五日を初天神と言います。亀戸の…

落語のひととせ 1 口上 ならびに春の部1

口 上 落語とは、江戸時代に成立したすばらしい口承文芸です。語る、ではなく話す芸です。難しい言葉で言うと、舌耕文芸と申します。 ところで、この落語という語はどうやって生まれたのでしょう。そもそも成立当初は「はなし」と呼ばれました。落語の世界で…

蛙の草紙 福福亭とん平の意訳

作品名から考えると、蛙が主人公のようですが、鳥獣戯画に見られるような蛙が活躍する話ではありません。話を読んでみたら、民話から落語が生まれるという流れが感じられましたので、後ろに蛇足を加えました。 蛙の草紙 ある富貴な人がいました。どうしたこ…

竹生島の本地 福福亭とん平の意訳

鏡男が迷い込んだ家に、時においでになるという竹生島の弁財天が人間であった時の話を語ります。竜女が成仏したという女人往生を説く法華経五の巻が出て来ますが、『更級日記』の著者は、夢に出て来た僧に、物語にうつつを抜かさずに、「法華経五の巻を疾く…

鏡男絵巻 福福亭とん平の意訳

鏡の無い国のお話を意訳します。最後にご参考までに落語だけを付けておきます。その他の関連作品はお探しください。 鏡男絵巻 昔、近江の国の山奥の里に、貧しい男が住んでいました。男は、これまで都の文物を見ていないのは残念だと、都へ上りました。都で…

一寸法師 福福亭とん平の意訳

丈一尺の『小男の草子』の続きとして、今度は、その十分の一の丈の、誰でも知っている『一寸法師』を当たり前のように並べてみます。一寸法師が能力を持った特別の存在ではなく、ただの異形の者と思われていて、打出の小槌の能力によって幸いになるのが、『…

小男の草子 福福亭とん平の意訳

物語には、神仏が人間であった時代の出来事を語り、こうして神になるという作品がありまして、「本地もの」と呼ばれています。そのような作品を一つ、取り上げてみました。地方出の男が、どこで身に付けたか和歌に堪能であるというのは、『物くさ太郎』とも…

ささやき竹 福福亭とん平の意訳

『地蔵堂草紙』では、お坊さんも欲望のある人間であると語られていました。同じような笑い話を拾いました。 ささやき竹 昔、河内国の前の役人で、刑部左衛門(ぎょうぶさえもん)よしちかという裕福な人がいました。年をとっても子供がありませんでした。屋敷…

地蔵堂草紙 福福亭とん平の意訳

『天稚彦草子』を紹介した時に少し触れたので、ここに掲げておきます。発端は『日本霊異記』に見られる僧の欲望、中間は浦島太郎のような異界訪問、そして最後の変身が『天稚彦草子』と、三つの作品の要素が重なっています。 地蔵堂草紙 時は昔のこと、越後…

天稚彦草子(一名 七夕の草紙) 福福亭とん平の意訳

7月7日・七夕の日、牽牛・織女はなぜ年に1回だけしか逢えなくなったのか、一つの物語を訳してみました。この作品はいろいろ別名があります。 天稚彦草子(あめわかひこそうし) 一名 七夕の草紙 昔、長者の家の前の川で、屋敷の女が洗濯をしていました。そ…

証空、師の命に替る事(泣不動縁起) 福福亭とん平の意訳

証空、師の命に替る事 昔、三井寺に智興内供という尊い方がいました。年を取って、どういう因縁か病気になって、重篤な様子になりましたので、弟子たちが集まって泣き悲しんでいました。その時に、安倍晴明という神のような陰陽師がこの様子を見て、「この度…

かなわ(鉄輪) 福福亭とん平の意訳

かなわ 人皇第六十六代の天皇様は一条天皇と申し上げます。この天皇様は、どのような縁でありましたのか、人々に慈しみ深くして国を守ってご政道を正しくなさいました結果でしょうか、国土は落ち着いていて、お心に叶わないということがございませんでした。…

雪女物語 福福亭とん平の意訳 

雪女物語 さても、第六十六代一条天皇の御代、天皇様が夢で不思議なお告げを受け、橘の朝臣道成卿を勅使として、三条小鍛冶宗近に、剣を打てとの命令を下されました。 道成卿はこの命を受けて、小鍛冶宗近を呼んで、「天皇様が、夢の中で不思議なお告げを受…

資料:安寿とつし王丸(厨子王)はいくらで売られたか 福福亭とん平

物語の中の人買いのお値段 試算 物語の中では人身売買が行われ、とても多くの転売が繰り替えされ、主人公の悲劇を強調することがあります。 その際にどれくらいの価格で取引が行われたかは、非公然の取引ですから、記録がないのは当然と言えば当然ですが、転…

続日本紀から 福福亭とん平 

七年目の巡り合わせ 天平二年(730)正月十三日、大宰府政庁に近い大伴旅人の家に集まって人々が梅花の宴会を開き、花を愛でて歌を詠んだ。大伴旅人は人々の歌の序として「初春の令月、気淑(うるは)しく風和(やは)らぐ(この初春のよき月、気は麗らかにして…

資料:江戸のしりとり歌 福福亭とん平

江戸のしりとり歌 題に「江戸の」とついているのは、もちろん土地としての江戸の意味です。8句目にある桂文治は、慶応2年(1866)に6代目を襲名して、そのころはやったしりとり歌です。祖母から聞いたものなので、通行の文献と違っているところもあると思い…

小倉百人一首もじり歌2 福福亭とん平

小倉百人一首 50~100 かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを 藤原実方朝臣 かくとだに知らず迎えた新学年 熱き思ひで学び求むる明けぬれば暮るるものとは知りながら なほうらめしき朝ぼらけかな 藤原道信朝臣 離れても心は一つ…

小倉百人一首もじり歌1 福福亭とん平

小倉百人一首 1~50 今度は、和歌を題材に読み替えてみることにしました。 最初は、与謝野晶子の歌などで試作しましたが、きりが無いのでまとまった数の作品にしました。せっかくなので、晶子の歌もここに記しておきます。 やは肌のあつき血汐にふれも見…