2022-01-01から1年間の記事一覧

まつら長者 後編(四段目~六段目) 福福亭とん平の意訳

まつら長者 後編 (四段目~六段目) 四段目 気の毒なさよ姫は涙ながらに足を速めますと、間も無く、先をどちらと問うという言葉に通じる遠江の浜名湖、そこの今切から入ってくる潮の流れに棹をささなくても上る漁師の小舟のように、舟を漕ぐに縁ある言葉の…

まつら長者 前編(初段~三段目) 福福亭とん平の意訳

まつら長者 前編 (初段~三段目) 初 段 今から語ります神仏の現世での物語は、国で言えば近江の国、竹生島の弁才天のもともとの物語を詳しくお話しします。この弁才天は、かつては普通の人間でいらっしゃいました。 国の名は大和の国の壺坂という所に、松…

木幡狐(こはたきつね) 福福亭とん平の意訳

木幡狐 全 少し昔のことでありましょうか、山城国木幡の里に、年を重ねて長生きをしている狐がいました。稲荷の明神のお使いを務めていることで、あらゆることが思いのままで、とりわけ子どもは、男子も女子も多くいました。どの子も知恵が働き、学問、芸能…

七草草子 福福亭とん平の意訳

七草草子 全 さて、世の中で、天子様の御志ほど有り難いことはございません。と申しますのは、まず第一に、陽気の盛んになる春の始めには、国の全体から国の民の一人一人に至るまで不自由がなく、一年中天災も人災も無く平穏無事であるようにと、天子様おん…

瓜姫物語 福福亭とん平の意訳

瓜姫物語 全 古代の神代から人の歴史が始まって、どれほど経ったともわかりません。大和の国石上というところに、おじいさんとおばあさんがいました。二人は、後々の世までも添い遂げようと深く契って、長い年月を過ごして来ましたが、一人の子もいませんで…

かざしの姫君 福福亭とん平の意訳

かざしの姫君 全 昔、五条の辺りに、源の中納言様と申し上げて、とても上品な方がいらっしゃいました。その奥様は、大臣様のお嬢様でございました。お二人の間には、姫君がお一方いらっしゃいました。お名前を「かざしの姫君」と申し上げます。そのお姿を拝…

壺の碑 参考資料 徳道聖人、始めて長谷寺を建てる語(今昔物語集より)

徳道聖人、始めて長谷寺を建てる語 今昔物語集巻第十一の第三十一 壺の碑が祟りをなすという話から、漂着した霊木が、人々に働きかけた話を一つ。 昔のことです。洪水があった時に、近江の国の高島の郡に大きな木が漂着しました。土地の人がその木の端を切り…

壺の碑(いしぶみ) 福福亭とん平の意訳

壺の碑 全 さてさて、千引の石と申しますのは、昔、平(へい)城(ぜい)天皇様の御代に、陸奥の狭布(きょう)の郡の壺という所に、高さが五丈ほどの大きな石がありましたが、坂上田村麻呂将軍が蝦夷の悪路王を征伐なさった時に、この石の表面に弓の弭で「日本の…

のせ猿草紙 福福亭とん平の意訳

のせ猿草紙 全 さてさて、丹波国能勢の山に、年を経た猿がいて、その名を増(まし)尾(お)の権頭(ごんのかみ)と申しました。その子に、こけ丸殿といって、抜きんでて知恵や学問、芸能に優れた方がいました。このこけ丸殿が扇を手にして舞を一差し舞ってお入り…

をこぜ 福福亭とん平の意訳

をこぜ 山桜は、私が住むあたりの景物であるから、珍しくもなく、春のうららかな時には、浜辺がまことに好く、低い波と高い波の女波男波が交互に打ち寄せ、岸辺の美しい藻を洗っているところに、波間に浮き沈む千鳥の鳴く音もいうまでもなく好く、沖行く舟が…

蛤の草紙 福福亭とん平の意訳

蛤の草紙 天竺摩訶陀国の片隅に、しじらという人がいて、この人は、とてもとても貧しい人でした。父親には若い時に死に別れ、一人の母がいらっしゃいました。その頃天竺はひどい飢饉になって、人が飢えて死ぬことが長く続きました。しじらは母を養うことがで…