古典文学資料

説経かるかや 6 福福亭とん平の意訳

かるかや 6 与次殿は、石堂丸様がお山から下られるのと、不動坂で出会いました。与次殿は石堂丸様のお姿をご覧になり、「さて、そこに下りてくるそなたは、昨日母上がお亡くなりになったということがお山まで伝わって、そのために卒塔婆を担いで来たのであ…

説経かるかや 5 福福亭とん平の意訳

かるかや 5 奥方様は与次殿の話をお聞きになり、「それでは、私はお山に上ることは叶わないのか、悲しいこと、あの子一人で上らせようか。しかしながらあの子はね、私のお腹の中で七か月半の時に重氏殿に捨てられた赤子のことだから、実の父の重氏殿に尋ね…

説経かるかや 4 福福亭とん平の意訳

かるかや 4 予次殿はこの奥方様の言葉に、「もうしもうし、旅の奥様、あなた様はこの高野のお山の厳しい禁制をご存じでそう仰せなのですか。ご存じなくて仰っておいでのようですね。そもそもこの高野の雄山は、都を離れること四百里の場所で、女人は決して…

説経かるかや 3 福福亭とん平の意訳

かるかや 3 ああ、なんとも申しようがございませんが、苅萱殿は高野山へとお着きになり、そこで谷川の水を汲んでは、花を摘んで香を供えて朝夕に念仏を唱えて、仏道に打ち込んでいらっしゃいました。 ここまでは苅萱道心殿の物語でしたが、これはさておき、…

説経かるかや 2 福福亭とん平の意訳

かるかや 2 ああお気の毒なる重氏殿は、新黒谷にお着きになりましたが、上下さまざまな身分の方がお参りになって混雑しているその中を、雑踏をかき分け、お堂の正面にお参りにおいでになって、「これ申しお上人様、お願いですが、私に仏縁を結んでください…

説経かるかや 1 福福亭とん平の意訳

かるかや 1 これから語ります物語は、信濃の国善光寺の奥の御堂に、親子地蔵とお姿を顕されているお地蔵様の由来を詳しく説いてお聞かせ申すと、このお二人もかつては人間でございました。この主人公は、国は大九州筑前の国、苅萱の庄の加藤左衛門重氏殿で…

琴腹 福福亭とん平の意訳

琴腹 後一条院の御治世の時、中宮のお部屋に立てられていた琴の腹に鼠が子を産んだので、お仕えしている人たちが、これは一大事と言い合っていたところ、天皇様も、「このようなことは、先例が多くあることか」と、殿上人たちにお尋ねになりました。「置いて…

和泉式部 福福亭とん平の意訳

和泉式部 昔、一条院の御治世、栄える京の都に、和泉式部という優美な女房が一人いました。内裏には橘(たちばなの)保(ほう)昌(しよう)保(やす)昌(まさ)という優美な男性が一人いました。保昌は十五歳、和泉式部は十三歳という年頃から愛し合い、和泉式部が十…

師門物語 下 福福亭とん平の意訳

師門物語 下 冷泉は、「さあさあお急ぎ下さい」と浄瑠璃御前を促しますが、「次の土地はどこの国のどこか判らないで、ただ『よしみつ寺』と尋ねても、いったいどこの誰がよしみつ寺はどこの国のどの場所だと詳しく教えてくれるのだろうか」とお泣きになりま…

師門物語 中 福福亭とん平の意訳

師門物語 中 浄瑠璃御前はお気の毒に、師門公が討たれたとお聞きになってから思いに沈み、三迫で自害しようと思い定められのではございますが、お付きの冷泉が考えがあるからと言ったことで、「安直な考えに進んで、つらいことを重ねる悲しさよ」と嘆いてい…

師門物語 上 福福亭とん平の意訳

師門物語 上 師門物語 意訳 さて、灯火は消える前に光が増す。人は死ぬ前に悪念が起こる。そのような世の中、朝には精気に溢れて人生を誇っていても、夕暮れには白骨となって野の外れに朽ちる無常の世である。 さてさて平の将門公は、まことに不思議の力を持…

相生の松 福福亭とん平の意訳

相生の松 さて、昔から今日に至るまでのおめでたい例として言われることは多いですが、その中で、鶴の雛が巣立つ姿は千年の寿命を見せています。また、池の岸近くに亀が浮かび出るのは、万年の寿命の姿を見せるということです。それにも増して、格別にめでた…

古浄瑠璃すみだ川 後編(四段~六段) 福福亭とん平の意訳

すみだ川 後編(四段~六段) 四段目 梅若様が亡くなられ、土地の人々は梅若埋め若様の御遺言に従って、道の端に塚を築き上げ、墓の標として柳を植え、大勢の人が集まって念仏を唱えて、懇ろに梅若様の菩提を弔いました。今でも三月十五日には多くの人が参詣…

古浄瑠璃すみだ川 前編(初段~三段) 福福亭とん平の意訳

すみだ川 前編(初段~三段)初段 その時をいつかと考えますと、本朝第七十三代の堀河天皇の時代と伺っております。都の北白川に吉田の少将是定様という位の高いお方がいらっしゃいました。是定様は身分が高いことを誇ることはせず、心には五戒を保って、振…

さざれ石 福福亭とん平の意訳

さざれ石 さて、我が国の人間天皇の始めの神武天皇から十三代に当たる天皇様を、成務天皇と申し上げます。この天皇様の御世は、この上ないすばらしいものでいらっしゃいます。天皇様は年が若くいらっしゃる時は、左右の大臣が代わりに政務をお執りになりまし…

金剛女の草子 付、金剛醜女の語 福福亭とん平の意訳

金剛女の草子 昔、中天竺の大王の名を臨汰大王と申し上げます。この王には一人の姫がおいでになります。その名を金剛女と申し上げます。この姫の美しくいらっしゃることは、まるで、晴れた空にひとひらの雲が浮かんでいる中から、十五夜の満月が顔を出したよ…

藤袋の草子 福福亭とん平の意訳

藤袋の草子 《始めに》この物語は登場人物の名前がありません。どこにでもいるような夫婦一家と娘の物語です。判りやすいように、翁(おきな・おおじ)を喜六(四十代)、姥をお松(同年代)、娘をおもよと名付けて民話風に意訳します。 昔のことです。近江の国の…

熊野の本地 後編 福福亭とん平の意訳

熊野の本地 後編 その後、月日は次々と過ぎゆき、女御の遺骸は雨、露、雪、霜が当たって朽ちてきて、ついに白骨となってしまいました。ですが、女御の左の乳房だけは生前と色も変わらずに乳を出して、王子に飲ませ続けました。こうして王子が成長して、昼間…

熊野の本地 前編 福福亭とん平の意訳

熊野の本地 前編 さて、人間界である南閻浮提の大日本の都から南の紀伊国に大神がいらっしゃいまして、熊野の権現と申し上げます。とても霊験あらたかでいらっしゃり、御恵みは我が国の外までもご利益を施して、生きとし生けるものの願いを叶えてくださるこ…

うたたねの草子 福福亭とん平の意訳

うたたねの草子 うたた寝に恋しき人をみてしより夢てふ者はたのみそめてき (うたた寝に恋しい人に夢で会ってから、夢というものを頼りにするようになりました) このように平安時代の歌人の小野小町が詠んだのはたいしたことのない心の動きの様子で、その歌…

まつら長者 後編(四段目~六段目) 福福亭とん平の意訳

まつら長者 後編 (四段目~六段目) 四段目 気の毒なさよ姫は涙ながらに足を速めますと、間も無く、先をどちらと問うという言葉に通じる遠江の浜名湖、そこの今切から入ってくる潮の流れに棹をささなくても上る漁師の小舟のように、舟を漕ぐに縁ある言葉の…

まつら長者 前編(初段~三段目) 福福亭とん平の意訳

まつら長者 前編 (初段~三段目) 初 段 今から語ります神仏の現世での物語は、国で言えば近江の国、竹生島の弁才天のもともとの物語を詳しくお話しします。この弁才天は、かつては普通の人間でいらっしゃいました。 国の名は大和の国の壺坂という所に、松…

木幡狐(こはたきつね) 福福亭とん平の意訳

木幡狐 全 少し昔のことでありましょうか、山城国木幡の里に、年を重ねて長生きをしている狐がいました。稲荷の明神のお使いを務めていることで、あらゆることが思いのままで、とりわけ子どもは、男子も女子も多くいました。どの子も知恵が働き、学問、芸能…

七草草子 福福亭とん平の意訳

七草草子 全 さて、世の中で、天子様の御志ほど有り難いことはございません。と申しますのは、まず第一に、陽気の盛んになる春の始めには、国の全体から国の民の一人一人に至るまで不自由がなく、一年中天災も人災も無く平穏無事であるようにと、天子様おん…

瓜姫物語 福福亭とん平の意訳

瓜姫物語 全 古代の神代から人の歴史が始まって、どれほど経ったともわかりません。大和の国石上というところに、おじいさんとおばあさんがいました。二人は、後々の世までも添い遂げようと深く契って、長い年月を過ごして来ましたが、一人の子もいませんで…

かざしの姫君 福福亭とん平の意訳

かざしの姫君 全 昔、五条の辺りに、源の中納言様と申し上げて、とても上品な方がいらっしゃいました。その奥様は、大臣様のお嬢様でございました。お二人の間には、姫君がお一方いらっしゃいました。お名前を「かざしの姫君」と申し上げます。そのお姿を拝…

壺の碑 参考資料 徳道聖人、始めて長谷寺を建てる語(今昔物語集より)

徳道聖人、始めて長谷寺を建てる語 今昔物語集巻第十一の第三十一 壺の碑が祟りをなすという話から、漂着した霊木が、人々に働きかけた話を一つ。 昔のことです。洪水があった時に、近江の国の高島の郡に大きな木が漂着しました。土地の人がその木の端を切り…

壺の碑(いしぶみ) 福福亭とん平の意訳

壺の碑 全 さてさて、千引の石と申しますのは、昔、平(へい)城(ぜい)天皇様の御代に、陸奥の狭布(きょう)の郡の壺という所に、高さが五丈ほどの大きな石がありましたが、坂上田村麻呂将軍が蝦夷の悪路王を征伐なさった時に、この石の表面に弓の弭で「日本の…

のせ猿草紙 福福亭とん平の意訳

のせ猿草紙 全 さてさて、丹波国能勢の山に、年を経た猿がいて、その名を増(まし)尾(お)の権頭(ごんのかみ)と申しました。その子に、こけ丸殿といって、抜きんでて知恵や学問、芸能に優れた方がいました。このこけ丸殿が扇を手にして舞を一差し舞ってお入り…

をこぜ 福福亭とん平の意訳

をこぜ 山桜は、私が住むあたりの景物であるから、珍しくもなく、春のうららかな時には、浜辺がまことに好く、低い波と高い波の女波男波が交互に打ち寄せ、岸辺の美しい藻を洗っているところに、波間に浮き沈む千鳥の鳴く音もいうまでもなく好く、沖行く舟が…