2021-01-01から1年間の記事一覧

猿源氏草紙 福福亭とん平の意訳

猿源氏草紙 少し昔のことでありましょうか、伊勢の国の阿漕が浦に、一人の鰯売りがいました。元は海老名六郎左衛門と言って、関東の侍でありました。妻に死に別れて、一人娘があったのを長年召し使っている猿源氏という男に嫁入らせて、そのまま鰯売りの職を…

落語十二支

はじめに 少し昔のこと、落語について一時間ほど、何か楽しい話をせよ、とのご指名をいただきました。そもそも落語の発生が、戦国時代に出陣した大名は、戦闘のない時には退屈でしかたがありません。そこで、話の上手な者に楽しい話をさせました。この退屈を…

信太妻参考資料 江談抄(阿倍仲麻呂と吉備真備) 福福亭とん平の意訳

信太妻参考資料 吉備入唐の間の事(江談抄 第三の一) 安倍保名の七代前の祖先の阿倍仲麻呂と吉備真備との間のことについて、『吉備大臣入唐絵巻』がありますが、この絵巻は詞書が欠けていて詳しく知ることができません。この話は平安後期の大江匡房(104…

信太妻 5 福福亭とん平の意訳

信太妻 ◎第五 道満法師は、宮中の占術競べに負けて、日々怒り恨む心が増し、家来を呼び寄せて、「これ、お前たち、この度、わしが清明との占術の勝負に負けたことは、あまりに奴をあなどって思い上がり、思いがけない恥を搔いてしまった。もともと、奴らはわ…

信太妻 4 福福亭とん平の意訳

信太妻 ◎第四 さてさて、月日の経つのは早いものです。月日の進みを止めるものもなく、安部の童子は十歳を超えました。もともと並の生まれではないので、八歳の時から本を読んで学問を始め、その天性は一を聞いて十を知り、一度聞いたことは二度と忘れません…

信太妻 3 福福亭とん平の意訳

信太妻 ◎第三 そもそも、人間世界の盛衰について述べれば、盛者必衰(盛んなる者は必ず衰え)、会者定離(会った者は必ず別れるものである)、ということである。安部の保名は、しばらく前に信太の森で父を殺され、その敵を討ち取りましたが、世間の噂にならない…

信太妻 2 福福亭とん平の意訳

信太妻 ◎第二 保名は、思いがけない難儀に遭いましたが、狐の懇切な気持ちで幸いにも危うい命が助かりました。ですが、体のあちこちに傷を受けて気持ちもすぐれず、少し休もうと谷川へと下って行く途中に、土地の者らしい十六、七歳ほどのとても美しくかわい…

信太妻 1 福福亭とん平の意訳

信太妻 ◎第一 そもそも、天地陰陽の道理、吉と凶、禍と福をいかに招くかということは、人の知恵と無知の差にあるのである。この原理を悟れば、天地日月、全世界も、自分の思うままに知り、操れるのである。このことを知らなければ、つい目先のことも判らない…