2023-01-01から1年間の記事一覧

相生の松 福福亭とん平の意訳

相生の松 さて、昔から今日に至るまでのおめでたい例として言われることは多いですが、その中で、鶴の雛が巣立つ姿は千年の寿命を見せています。また、池の岸近くに亀が浮かび出るのは、万年の寿命の姿を見せるということです。それにも増して、格別にめでた…

古浄瑠璃すみだ川 後編(四段~六段) 福福亭とん平の意訳

すみだ川 後編(四段~六段) 四段目 梅若様が亡くなられ、土地の人々は梅若埋め若様の御遺言に従って、道の端に塚を築き上げ、墓の標として柳を植え、大勢の人が集まって念仏を唱えて、懇ろに梅若様の菩提を弔いました。今でも三月十五日には多くの人が参詣…

古浄瑠璃すみだ川 前編(初段~三段) 福福亭とん平の意訳

すみだ川 前編(初段~三段)初段 その時をいつかと考えますと、本朝第七十三代の堀河天皇の時代と伺っております。都の北白川に吉田の少将是定様という位の高いお方がいらっしゃいました。是定様は身分が高いことを誇ることはせず、心には五戒を保って、振…

さざれ石 福福亭とん平の意訳

さざれ石 さて、我が国の人間天皇の始めの神武天皇から十三代に当たる天皇様を、成務天皇と申し上げます。この天皇様の御世は、この上ないすばらしいものでいらっしゃいます。天皇様は年が若くいらっしゃる時は、左右の大臣が代わりに政務をお執りになりまし…

金剛女の草子 付、金剛醜女の語 福福亭とん平の意訳

金剛女の草子 昔、中天竺の大王の名を臨汰大王と申し上げます。この王には一人の姫がおいでになります。その名を金剛女と申し上げます。この姫の美しくいらっしゃることは、まるで、晴れた空にひとひらの雲が浮かんでいる中から、十五夜の満月が顔を出したよ…

藤袋の草子 福福亭とん平の意訳

藤袋の草子 《始めに》この物語は登場人物の名前がありません。どこにでもいるような夫婦一家と娘の物語です。判りやすいように、翁(おきな・おおじ)を喜六(四十代)、姥をお松(同年代)、娘をおもよと名付けて民話風に意訳します。 昔のことです。近江の国の…

熊野の本地 後編 福福亭とん平の意訳

熊野の本地 後編 その後、月日は次々と過ぎゆき、女御の遺骸は雨、露、雪、霜が当たって朽ちてきて、ついに白骨となってしまいました。ですが、女御の左の乳房だけは生前と色も変わらずに乳を出して、王子に飲ませ続けました。こうして王子が成長して、昼間…

熊野の本地 前編 福福亭とん平の意訳

熊野の本地 前編 さて、人間界である南閻浮提の大日本の都から南の紀伊国に大神がいらっしゃいまして、熊野の権現と申し上げます。とても霊験あらたかでいらっしゃり、御恵みは我が国の外までもご利益を施して、生きとし生けるものの願いを叶えてくださるこ…

うたたねの草子 福福亭とん平の意訳

うたたねの草子 うたた寝に恋しき人をみてしより夢てふ者はたのみそめてき (うたた寝に恋しい人に夢で会ってから、夢というものを頼りにするようになりました) このように平安時代の歌人の小野小町が詠んだのはたいしたことのない心の動きの様子で、その歌…