海潮音より 福福亭とん平

上田敏訳詩集『海潮音』より

大学は5月中はオンライン授業、6月から通常授業ということです。教員・学生双方にとって不幸な状況を、上田敏の訳詩集『海潮音』中の2作をもとに作りました。
 
  山のあなた    カアル・ブッセ
山のあなたの空遠く/「幸(さいわひ)」住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、/涙さしぐみかへりきぬ。
山のあなたになほ遠く/「幸」住むと人のいふ。
 
  嫌なあなた    かんにん・どっせ
6月始めとなりぬれば/対面授業と教務言ふ。
三密そのもの講師室、/入室怖く佇みぬ。
マスクを付けて我慢して/授業をせよと教務言ふ。
 
  オンライン授業期間延長を受けて、「6月始めとなりぬれば」を、
  「宣言解除のその後に」と置き換えます。
 
  落葉       ポオル・ヴェルレエヌ
秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し。
鐘のおとに/胸ふたぎ/色かへて/涙ぐむ/過ぎし日の/おもひでや。
げにわれは/うらぶれて/こゝかしこ/さだめなく/とび散らふ/落葉かな。
 
  落ちこぼれ    ボール・蹴りまくり
この春の/オンライン/テキストの/身にしまず/この先が/危ぶまる。
課題には/目が眩み/今更に/後悔す/過ぎし日の/不勉強。
げにわれは/推薦で/漸くに/合格の/情けなき/学徒かな。