君死にたまふことなかれ 福福亭とん平

近代詩

君死にたまふことなかれ         感染したまふことなかれ
 旅順口包囲軍の中に在る弟を嘆きて     ウイルス蔓延下に生きる愛し子を思ひて
          与謝野晶子                はげのおやじ
 あゝをとうとよ、君を泣く、       ああ元気なる君に告ぐ、
 君死にたまふことなかれ、        感染したまふことなかれ、
 末に生れし君なれば           日本に生まれし君なれば
 親のなさけはまさりしも、        医療制度はあるとても、

 親は刃をにぎらせて           国は基準を守らせて
 人を殺せとをしえしや、         検査を待てととどめしぞ、
 人を殺して死ねよとて          検査を待てずに苦しめど
 二十四までををそだてしや。       それは誤解と言い切るぞ。

 堺の街のあきびとの           世界に誇る勤勉な
 旧家をほこるあるじにて         働き人の一人にて
 親の名を継ぐ君なれば、         企業に通ふ君なれば、
 君死にたまふうことなかれ、       感染したまふことなかれ、
 旅順の城はほろぶとも、         アベノマスクが届くとも
 ほろびずとても、何事ぞ、        届かずとても、何事ぞ、
 君は知らじな、あきびとの        君は知らじな、三密を
 家のおきてに無かりけり。        避ければ感染無かりけり。

 君死にたまふことなかれ、        感染したまふことなかれ、
 すめらみことは、戦ひに         官邸人は、人々の
 おほみづからは出でまさね        気持ちに全(また)く寄り添はず
 かたみに人の血を流し          勝手に休業要請し
 獣の道に死ねよとは、          失業をして死ぬるをも、
 死ぬるを人のほまれとは、        倒産するが惨(みじ)めとも、
 大みこゝろの深ければ          思慮分別の浅ければ
 もとよりいかで思されむ。        大臣いかで知らざらむ。

 あゝをとうとよ、戦ひに         ああ愛し子よ、ウイルスに
 君死にたまふことなかれ、        感染したまふことなかれ、
 すぎにし秋を父ぎみに          過ぎにし秋に消費税
 おくれたまへる母ぎみは、        上げられ苦しむ生活は、
 なげきの中に、いたましく        不況の内に、いたましく
 わが子を召され、家を守り、       所得も減りて、困窮し、
 安しと聞ける大御代も          安心できる老後には
 母のしら髪はまさりぬる。        遥かに不安まさりける。

 暖簾のかげに伏して泣く         夜はゆるりと床に臥し
 あえかにわかき新妻を、         若い妻と幼子を、
 君忘るるや、思へるや、         君忘れずに慈しみ、
 十月も添はでわかれたる         笑顔の絶えずあふれたる
 少女ごころを思ひみよ、         明るい家庭続けゆけ、
 この世ひとりの君ならで         世帯の主の君ならで
 あゝまた誰をたのむべき、        他に頼れる人もなし、
 君死にたまふことなかれ。        感染したまふことなかれ。