浮世絵漫歩 19 歌川国芳の洒落 猫飼好五十三疋  

9歌川国芳「其まゝ地口 猫飼好五十三疋」の読み解き
 

 作品名は、「そのままじぐち みょうかいこうごじゅうさんびき」です。ずばり言葉の洒落、猫大好きな江戸っ子の歌川国芳が描いた、東海道五十三次の宿場名を猫にまつわる絵にした洒落です。
 なお、「地口」とは、ことわざや成句に同音または声音の似通った別の語を当てて、違った意味を表す洒落です。1日本橋から19江尻が上、20府中から39岡崎が中、40池鯉鮒から55京が下です。
 
   宿場名   読み     地口      意味
 1  日本橋  にほんばし  にほんだし   (鰹節を)二本出し
 2  品川   しながは   しらかを    白顔
 3  川崎   かはさき   かばやき    蒲焼
 4  神奈川  かながは   かぐかは    嗅ぐ(包みの)皮
 5  程ヶ谷  ほどがや   のどかい    喉(が)痒い
 6  戸塚   とつか    はつか     二十日(鼠)
 7  藤沢   ふじさは   ぶちさば    斑(ぶち猫)鯖
 8  平塚   ひらつか   そだつか    (子猫は)育つか
 9  大磯   おほいそ   おもいぞ    (この魚)重いぞ
10 小田原  おだはら   むだどら    (鼠を獲り損ね)無駄どら(猫)
11 箱根   はこね    へこね     (鼠に餌を取られて)凹(んで)寝
12 三島   みしま    みけま     三毛(猫)魔
13 沼津   ぬまづ    なまづ     鯰
14 原    はら     どら      どら(猫)
15 吉原   よしはら   ぶちはら    斑(ぶち猫の)腹
16 蒲原   かんばら   てんぷら    天麩羅
17 由井   ゆゐ     たい      鯛
18 興津   おきつ    おきず     起きず
19 江尻   えじり    かじり     囓り
20 府中   ふちゆう   むちう     夢中
21 鞠子   まりこ    はりこ     張り子
22 岡部   をかべ    あかげ     赤毛
23 藤枝   ふぢえだ   ぶちへた    斑(ぶち猫鼠獲りが)下手
24 島田   しまだ    なまだ     生だ
25 金谷   かなや    たまや     玉や(よくある猫の名)
26 日坂   につさか   くつたか    喰ったか
27 掛川   かけがは   ばけがを    化け顔
28 袋井   ふくろゐ   ふくろい    (頭を)袋へ
29 見附   みつけ    ねつき     寝付き
30 浜松   はままつ   はなあつ    鼻、熱(い)
31 舞坂   まひさか   だいたか    抱いたか
32 荒井   あらゐ    あらい     (顔を)洗い
33 白須賀  しらすか   じやらすか   じゃらすか
34 二川   ふたがは   あてがふ    (乳を)あてがう
35 吉田   よしだ    おきた     起きた
36 御油   ごゆ     こい      恋
37 赤坂   あかさか   あたまか    (魚の)頭か
38 藤川   ふぢかは   ぶちかご    斑(ぶち猫)、籠(の中)
39 岡崎   をかざき   おがさけ    尾が裂け(た化け猫)
40 池鯉鮒  ちりふ    きりやう    器量(よし)
41 鳴海   なるみ    かるみ     (体の)軽み
42 宮    みや     おや      親
43 桑名   くはな    くふな     喰うな
44 四日市 よつかいち   よつたぶち   寄った斑(ぶち猫)
45 石薬師 いしやくし   いちやァつき  いちゃつき
46 庄野  しやうの    かふの     飼うの(餌をちょうだい)
47 亀山  かめやま    ばけあま    化け尼
48 関   せき      かき      牡蠣
49 坂の下 さかのした   あかのした   赤(猫)の舌
50 土山  つちやま    ぶちじやま   斑(ぶち猫)、邪魔
51 水口  みなくち    みなぶち    皆、斑(ぶち猫)
52 石部  いしべ     みじめ     惨め(な猫)
53 草津  くさつ     こたつ     炬燵
54 大津  おほつ     じやうず    (睨んだだけで鼠が落ちる鼠獲り)上手
55 京   きやう     ぎやう     ぎゃう!(噛まれた鼠の悲鳴)

 江戸時代の猫は、長い尾と後脚で立ち上がって化けると人々が思っていましたから、尾は短くされていました。岡崎、鍋島など化け猫騒動の物語も多く作られています。
 46の庄野の「飼ふの」は、飼い猫に食べ物や水を与える意味です。猫に首輪が付いているのと猫が求めている姿から、飼い猫が餌をほしがっている場面と見ます。飼ってちょうだいという姿ではないと解釈します。

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「其まゝ地口 猫飼好五十三疋」